先週の金曜日、ご縁がありまして、デザイナーの原研哉さんの講演に行ってきました。
非常に引き出しの多い方で次から次へとピタリと決まった言葉があふれてくる感じで圧倒されました。(前日2時間しか寝ていなかったせいもあってついウトウトと。。)
おもな講演の内容は以下の2点。
・HAPTIC
・ex-formation
■HAPTIC
ハプティックと読むらしい。
もっと生の、例えば、「裸足で石畳に立つ」ような触感的なものに訴えかけるようなコミュニケーションに注目してみようという事でした。
テクノロジーの発達によって人間の感覚はむしろ退化してるのではないだろうかという批判からこのようなアプローチをとったということらしいです。
■ex-formation
informationが「知らせる」ものであるとしたら、ex-formationは、「知らないという事を分からせる」という概念らしいです。この講演で一番面白いと思った部分です。
Gucciについて「分からせる」のではブランド戦略にならなく、「いかにあなたがGucciについてしらないのか」を分からせるからお客さんは魅きつけられるという話を例に出していました。(トム・フォードの辞めた今のGucciは全然そんな感じがしなくて寂しいですが。)
作例としては、武蔵美の学生と四万十川に対して何らかのビジュアルコミュニケーションを作るプロジェクトをあげていました。その一つに四万十川の源泉から河口までの写真を撮り、川の清流の部分にアスファルトの道路を合成したイメージがありました。道路の真ん中には中央分離帯の白線があり、河口にたどり着く頃には70車線もの太さになってるというものでした。
■
どちらのアプローチもコミュニケーションの根っこである「知っている」ということはどういう事だろうかという事から出発してるようです。
主にインターネットでは断片的な情報があふれていて、薄っぺらい情報を得ただけで多くの人は「知ってる、知ってる。」と言ってる事を批判しています。たしかにそれはそうなのだけど。
昔読んだ、(というか途中で挫折した)本に「銃・病原菌・鉄」というのがあって、その中にインカ帝国がスペイン軍に勝てなかったのは、科学技術でも軍事力でもなく、情報の差だったと言う話が出てきます。たぶん、スペイン軍はインカ帝国について知っている事って「ああ、知ってる、知ってる」くらいの事だったのじゃないかと想像します。世の中にはそういうクリティカルな情報だってあると思います。
また、昔は、ぼくみたいな庶民が知る由もなかったような情報が、圧倒的なスピードで広まっていっているのも事実です。たしかに薄っぺらい「知ってる、知ってる」程度のものかもしれないけど、やはりその前と後では何かが決定的に違っていると思います。
インターネットでいらない情報があふれて、溺れちゃうようなら、役立つ物や、必要なものや、いままで知らなかった情報を取り出せる仕組みをデザインするのが筋なんじゃないかなと思いました。
そういう意味でex-formationというアプローチは面白い。
インターネットの世界にもex-formationはもっと増えるべきなのでは。
■原さんについて
デザインに対してとても誠実な人だと思いました。僕が「知ってる、知ってる。」程度のことですけど(笑)。
原さんのように、概念とかについてちゃんと考えるのは、めんどくさいし、時間もかかるし、あんまり儲かんないかもしれないし、クライアントも含めて、お客さんにとっては概念なんてどうでも良くて、基本的には、結果だけあればそれで事足りると思います。「うわーすげー概念だ。」と思って商品を買う人ってあんまりいない気がします。
けど、そこをちゃんと掘り下げないと「ぐっと来る感」が出ないのだろうなあ。作り手はインスタントであってはいけない。「ex-formation」みたいな発想も概念をきちんと掘り下げた結果なのでしょう。
間違いなくトップランナーの一人でしょう。
デザイナーなら読んでおきたい一冊です。
ぼくはあまりピンとこなかったですけどHAPTICは人気あるみたいです。